2017年以来6年ぶりの開催となった野球世界一を決める第5回WBCが3月8日~22日にかけて行われ、日本代表・侍ジャパンは決勝で米大リーグのスター選手がそろう米国に競り勝ち、3大会ぶり3度目の優勝を果たした。大会期間中は、野球ファンを連日楽しませてくれた。特に優勝を決める最後の打者に大谷の同僚トラウト選手を迎えたシーンは、大リーグでMVP経験のある日米のスターの直接対決で運命めいていて、漫画のような世界だった。一球、一球かたずをのむ中、100マイルを超える速球で追い込み、フルカウントから外角へのスライダーで空振り三振を奪ったシーンは、久しぶりに野球の醍醐味を味わわせてもらった。投打の二刀流で活躍し大会MVPに輝いた大谷は、その瞬間を「間違いなく今までのベストの瞬間」と表現した。
その大谷の二刀流を育てたのは栗山監督であるが、今回の采配ぶりも称賛されている。選手を信じ切り、選手の能力を最大限に引き出そうとするその姿勢には、ゆるぎない指導哲学を感じさせられた。栗山監督は勉強家で以前から、森信三氏、安岡正篤氏、渋沢栄一氏、そして稲盛和夫氏等の書籍を愛読し、その指導哲学を確立されたようである。
ある雑誌の記事が目に留まった。栗山監督に「これまでたくさんの選手を育ててこられた中で、伸びる選手と伸びない選手の違いはどこにあると思われますか」という問いかけに答えたものである。
本当に野球が好きであれば、誰よりも野球がうまくなりたいと思うわけで、好きなもののためだったら、誰よりも努力できると思うんです。ところが、この世界は自分の好きなことを仕事としてやれる数少ないものの一つなのに、本当に野球が好きなんだろうかと思うような選手もいるんです。それほど好きでなくても才能溢れるゆえに活躍できる選手もいるけど、最後はやっぱり野球を好きという思いが、その選手を大きく押し上げる力になると思います。あの稲盛氏も「仕事を好きになりなさい、好きになる努力をしなさい」とよく言われていた。
あとは素直さです。人間というものは、少し結果が出てくると、自分のやっていることを正しいと思うようになります。でも本当に正しいかどうかなんてわかりませんよね。だから、自分がやっていることは正しいと凝り固まってしまうのではなく、自分にとって耳の痛いことも素直に受け入れ、スポンジのような吸収力や適応力と言ったものを持っている選手が、やっぱり一気に伸びていきます。
野球でも最後は思いや人間性が問われるのである。どの世界でも原理原則は同じである。