今年の全国高等学校野球選手権大会は仙台育英高校が下関国際高校を8-1で破って東北勢悲願の初優勝を飾った。見事な戦いぶりであったが、その後の須江監督の優勝インタビューが話題になっている。

須江監督は「入学どころか、多分、おそらく中学卒業式もちゃんとできなくて、高校生活っていうのは、僕たち大人がすごしてきた高校生活と全く違うんですね。青春ってすごく密なので。でも、そういうことは全部だめだ、と言われて。活動をしててもどこかストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、でも本当にあきらめないでやってくれたこと。でもそれをさせてくれたのは、僕たちだけでじゃなくて、全国の高校生のみんなが本当によくやってくれて。例えば今日の下関国際さんもそうですけど、大阪桐蔭さんとかそういう目標になるチームがあったから、どんな時でもあきらめないで暗い中でも走っていけたので、本当にすべての高校生の努力の賜物が、ただただ最後に僕たちがここに立ったというだけなので、ぜひ全国の高校生に拍手をしてもらえたらなと思います」と全国の高校生を思いやり、涙を流しながら熱いメッセージを送った。その中の『青春ってすごく密なので』は全国で反響を巻き起こしている。「この言葉は須江氏が選手たちをずっと見てきた経験から出た実感のこもった言葉である。高校生たちの時間は非常に凝縮されていて、勉強も練習も含め、一日の中で記憶に残る一瞬が何度も訪れると思う。そのことを青春ってすごく密と短く表現できるのは優れた言語感覚である」と国語辞典編集者の飯間弘明氏が分析されていた。部員は全員、須江氏のことを「監督」ではなく「先生」と呼んでいるとのこと。須江氏は素晴らしい指導者であり、教育者であると感銘を受けた。

須江氏は仙台育英高校の野球部出身だが、高校時代公式戦はおろか練習試合にも出た経験がない。「高校では完全に補欠でした。自分でもなかなかの補欠っぷりだったと思います」と本人も述べている。ただ監督に就任したときには「自分が数値を重視する指導者であること、試合に出るためには、この数値をクリアしなければならない。そのためにはこういうトレーニングが必要である。ユニフォームを着て試合に出るトップチームに入るまでの道筋を示したうえで、実戦で力を証明してほしい」と伝え、選手起用の透明性を確保した。補欠監督だからこそできた数値重視の大改革である。同時に部員全員に厳しさや緊張感と同等に、想像力からくる優しさを日々の活動の中で求めた。

優れたリーダーである。補欠も含めすべての部員に向き合いながら、結果を重視し、透明性のある選手起用を行う。従業員に対する思いやりを基本としながら、評価基準を明確にし、結果を求め公正に評価する。優れた組織にするための原理原則は野球チームだろうと、会社だろうと同じである。