歴代最長の安倍総理の辞任を受けて、9月16日に菅内閣が発足した。内閣支持率は日経新聞によると74%で政権発足時としては過去3番目の高さだった。支持する理由は「人柄が信頼できる」が最多だった。菅氏は自民党総裁選で「雪深い秋田の農家の長男として生まれた」と生い立ちを紹介し、地方議員などを経て国政入りした経緯を繰り返し説明したことが好感を持たれたようである。ただ、安倍内閣の積み残した課題が山積している。取り逃がした成長力を取り戻すため、菅氏は政策運営の中心に規制改革を据えた。コロナ対策と改革を融合し、もう一度世界に輝く日本にしていただきたいと思う。

改革と言えば、平成30年7月に大幅な民法改正が行われた。その改正で配偶者居住権が新設され、令和2年4月1日以降に開始する相続について設定可能である。配偶者居住権には、残存配偶者に対する居住権を保護する配偶者短期居住権(民法1037条)と残存配偶者の生活費の確保の観点から居住建物に係る使用収益権のみを認めて処分権を有しない配偶者居住権(1030条)とがある。配偶者短期居住権は利益評価が不必要な権利である。一方配偶者居住権は原則として終身の間、居住建物を使用継続できる利益を有するので、他の共同相続人との遺産分割上の均衡を図る観点から、利益評価が必要となる。ただしその評価方法は税法にゆだねられ一定の算式で計算される。その結果、居住用不動産は①建物の利用権②建物の所有権③土地等の利用権④土地等の所有権の4つの区分に分けてその評価方法を規定している。

以上が概略である。配偶者居住権とは①居住用不動産の権利を住む権利とその他の権利に分離して、配偶者と他の相続人が別々に相続する仕組みで②相続発生時に自宅に住んでいた配偶者にだけ認められる権利である。配偶者居住権は設定登記を行う必要があり③売却することも相続させることもできない配偶者のみに認められた特別な権利である。配偶者居住権を活用すると、これまでは遺言だけでは不可能であったことが可能になったり、遺産相続争いの防止にも役立つ制度である。

さらに、相続税申告時には、居住用不動産の価額は建物利用権額、土地等利用権額を控除後の価額で評価され、配偶者居住権の敷地となっている土地等の利用権、所有権とも他の適用要件も充足すれば、特定居住用宅地等の課税特例の適用対象にすることも可能である。うまく活用すれば相続税の節税も可能である。ただし将来、施設等に入居するなどにより、配偶者居住権の設定された居住用不動産を売却等する場合は思わぬ課税が発生するので、配偶者居住権の設定はくれぐれも慎重にする必要があります。