昨年の12月14日に与党税制改正大綱が発表された。今回は大きな改正は無いようだが、ここ数年検討事項に掲げられてきた個人事業者の納税猶予制度が、経産省の強い要望でようやく法案として創設された。

大まかな内容は自社株納税猶予制度の特例をベースにしている。適用期限は平成31年1月1日から平成40年12月31日までの時限法案である。事前に承継計画の提出を行い、贈与、相続後に認定を受ける必要がある。承認計画書の提出期限は平成31年4月1日から平成36年3月31日までの5年間で、提出先は各都道府県である。納税猶予額の計算方法、担保提供についても当然必要であり、ほとんど自社株納税猶予制度と同じである。

ただ、この法案の利用は限定的になるのではないかと思われる。何故なら、この法案は法人の事業承継税制に続き、個人事業者についても、高齢化が急速に進展する中で、円滑な世代交代を通じた事業の持続的な発展を確保するために、個人事業者の事業承継を促進する一助として創設されたものである。しかしながら、そもそも個人事業者の廃業理由は「当初から自分の代でやめようと思っていた」「事業に将来性がない」「子供に継ぐ意思がないなどの後継者難」で約95%を占め、税負担を理由としたものではないのが現状である。

さらに問題なのは法案の内容である。猶予対象となる事業用資産は、被相続人の事業の用に供されていた土地、建物及び建物以外の減価償却資産で青色決算書に添付されている貸借対照表に計上されているものに限定されている。さらに土地、建物についてはそれぞれ、400㎡、800㎡と面積制限が付されており、既存の事業用小規模宅地特例との選択適用を前提としている。そうなると多くの納税者が利用をためらうのではないかと思う。

小規模事業用宅地とは、事業に供されている宅地のうち400㎡までの部分は8割の評価減ができる制度であり、その評価減の大きさから第二の基礎控除と呼ばれている制度である。当該制度と選択適用であれば、長年にわたる猶予リスクを考慮するとほとんどの納税者は小規模事業用宅地を選択するのではと思われる。創設当時の自社株の納税猶予制度と同様に使えない税制になる可能性がある。更なる内容の検討が必要ではないだろうか。