今年も(財)日本税務研究センター主催の夏期セミナーに参加してきた。このところ毎回講義をしていただく東京大学大学院教授で、政府税制調査会会長の中里実先生の講義内容が興味深かった。
それは、以前から中里氏が述べられていたことであるが、先進国のいわゆる中間層の剥落が起こっている。それがアメリカ大統領選でのトランプ氏の勝利や、Brexitの要因ではないかと言う話である。それは1989年に起こったベルリンの壁の崩壊以降、世界人口50億のうち、アメリカ、ヨーロッパ、日本にいる5億人だけが豊かであった世界が、世界人口70億のうち、中国、ロシア、ブラジル、インドをいれて70億人中35億人くらいが、豊かになろうとしている、そういう世界になった。そういうなかで、先進国の中間層の剥落が起こった。アメリカ、ヨーロッパ、日本における中間層が剥落して、その富はどこに行ったかと言うと中国やインドの豊かな人たちのところにいったという推測をされています。
そこでいわゆるトランプ現象がおきた。世界的な中間層の崩壊の中で、今まで経済的に安定していた中間層、サイレント・マジョリティーが生活に不安を感じるようになった。「自分たちも経済的に苦しいのに、なぜ、マイノリティーのために色々な事をしなければならないのか、なぜ移民を受け入れなければならないのか」という口には出せない(ここがポイントで口に出したらおしまいなので)反感を募らせたのであろう。また、それに拍車をかけたのが、「ワシントンのインサイダーの人たちは、きれいごとばかり言って、結局うまいことやっているのではないか」というエリートへの不信感である。
サイレント・マジョリティーの本音は、「ワシントンのエリートたちは、口先だけの正論を主張して、我々自身が経済的に没落しているにも拘わらず、恵まれないマイノリティーのために負担を強いることを主張する。これ以上の負担はごめんだ」という極めて正直な気持ちである。その本音を上手につかんだのがトランプ氏であり、これがトランプ現象の本質である。という講義であり説得力があった。
しかし、だからと言って、利己主義や排他主義に陥ってはならない。その行き着くところが豊かな世の中にはならないことは、容易に理解できるし、何よりも歴史が証明している。これをこうすればうまくいくというような簡単な話ではないが、やはり、皆が幸福である社会を目指すこと自体が大切な事なのだと思う。今こそ痛みがわかるリーダーが求められるし、日本においてはこのような現象に歯止めをかけるためにも所得税改革が喫緊の課題になると思う。