トランプ大統領は9月24日に、約2,000億ドル相当の中国製品に10%の対中制裁関税を課す対中制裁関税の第3弾を発動した。中国も600億ドル相当のアメリカ製品に5~10%を上乗せする報復関税を即日実施した。これで両国は互いの輸入品5割~7割に高関税を課すことになり、いよいよ危険水域に入ったと言われている。最近の両国のやり取りを見ていると、本当の戦争になってしまうのではないかと思うほどである。
トランプ大統領は翌日の25日には、ニューヨークの国連本部で「私たちはグローバルリズムの思想を拒絶し、愛国主義を信奉する」と演説し、グローバルリズムに背を向けるとともに、米国第一主義に邁進する方針を強調した。過去にこれほどはっきりと自国の利益のみを追求するというエゴむき出しの演説をしたリーダーがいただろうか?
確かに中国はグローバル経済のいいとこ取りをしながら経済大国になった。国家資本主義で突き進む中国が第4次産業革命で優位に立ち、米国の経済覇権を脅かすという危機感は米議会、有識者にも共有され始めている。中国は30年代前半にも米国を抜いてGDPで世界首位になるだろうとも言われている。一党独裁の政治体制の中国が経済支配のみならず、世界の覇権を握ろうとしているのは明らかであり、それは世界にとって大きな脅威であるのも事実である。
しかしながら、このまま貿易戦争を続ければどうなるのだろう?短期的には米国が有利だと言われているが、米国ではすでに高関税により鉄鋼価格等が値上がりしている。その結果、米製造業は輸出競争力が保てなくなり、長期的には企業の米国離れを招く懸念がある。長引くようであれば、世界景気が大幅に減速し、中国では企業倒産が増加し、米国でも景気が悪化してしまうという勝者なき戦争であることは容易に理解できる。
最近の科学は急速な進歩を遂げている。イノベーションを伴うグローバル化は、発展途上国、先進国という枠さえ溶かそうとしている。しかし、世界の政治は自分の利益を第一に考えるポピュリズムが台頭してきている。こんな情勢を見ると、人間は本当に進化しているのだろうか?進化どころか退歩しているのではないかと考えてしまう。
この状況を打破するのは、月並みだと思われるかもしれないが、『正義、公正、公平、正直、博愛などの言葉で表現されるプリミティブな倫理観、考え方』しかないのだと思う。今こそリーダーのみならず皆がこの考え方に立ち帰る時なのだと思う。