確定申告の真っ只中で、一年で一番忙しい時期を迎えている。 そんな中、昨年12月に提出した相続税の申告書の件で、税務署から納税猶予制度が認められないという連絡を受け、その対応に追われた。 880万円もの増差税額が発生する話なので、内心あせったのだが、条文をじっくり読むと論理解釈上は税務署の言っていることも理解できたが、文理解釈上は問題ないと思われた。
そこで、税務署にその旨を伝えたところ税務署もあっさり間違った指摘であったことを認めた。 国税庁のHPにこの件に関して新たに質疑応答事例が掲載されていたのだが、どうも税務職員がそのことを理解していなかったようだった。
文理解釈ということで、思い出されたのが平成23年の武富士事件と呼ばれる1,330億円の贈与税の追徴課税を巡る税務訴訟事件である。 これは武富士の元会長が武富士株を所有するオランダの会社の株を長男に贈与したことが原因となっている。 明らかに相続税の租税回避を意図して行ったものであるが、最終的には最高裁で納税者が勝訴した。
そのとき有名な補足意見が述べられている。 それは 「・・・納税は国民に義務を課するものであることからして、この租税法律主義の下で課税要件は明確なものでなければならず、これを規定する条文は厳格な解釈が要求されるものである。 明確な根拠が認められないのに、安易に拡張解釈、類推解釈、権利濫用法理の適用などの特別の法解釈や特別の事実認定を行って、租税回避の否認をして課税することは許されない。」 というもので、租税回避を意図したものでさえ、課税判断は厳密な文理解釈によらなければならないというものである。
文理解釈とは法文に書かれていることをその文字と法文に従って理解する解釈手法のことである。 文理解釈だけで全てを判断するのは危険だが、この最高裁判決は我々実務家が仕事をする上において大きな指針となった。
ただ租税回避行為が許されて金持ちだけがいい思いをするのかと思う人もあると思うが、現在はそれに対応した法律に改正されている。 また、ご存知のようにその後、武富士は多額の借金で破綻してしまっている。 また過去にはダイエーの創始者である中内氏が子供にダイエー株を租税回避スキームを利用して移転したのだが、ダイエー自体が事実上破綻してしまって、株式移転の意味がなくなってしまった。 やはり、過度な租税回避的な考え方はどこかでひずみを生じさせ、最後には良くない結果になっているようである。