先月盛和塾愛媛で稲盛和夫氏の『実学』の紐解きの依頼を受け、これはしっかり話さなければと思い改めて熟読したところ、色々なことに気づくことができたのでその一部を述べてみようと思う。
実学の第一章にキャッシュベースで経営するとある。「キャッシュベースの経営」というのは、「お金の動き」に焦点を当てて、物事の本質に基づいたシンプルな経営を行うことを意味している。会計はキャッシュベースで経営するためのものでなければならない。というのが稲盛氏の持論である。
その中で面白いエピソードが述べられている。それは京セラの創業期の頃の話で決算報告を終えた経理部長に対して、「儲かったお金はどこにあるのか」とたずねたところ、彼は、「利益は売掛金や在庫、また設備など、さまざまなものに姿を変えているので、簡単明瞭にどこにあるといえない」と答えた。そこでさらに踏み込んで「利益から配当しなければならないというが、それだけのお金がどこにあるのか」と聞いたところ、彼は利益は手持ちの資金としては無く、配当資金は銀行から借りる予定であると述べた。私はそれが非常に不思議に思えたので、「配当をするお金が無くて、わざわざ銀行から借りてくるというのでは、儲かったといえるのだろうか?」と尋ねた。経理部長は、「はい、それでも儲かったと言うのです」と答えたという笑い話のような話である。
まさに「勘定合って銭足らず」そのものである。これは近代会計が発生主義会計のため、決算書にあらわれる損益計算書の数字の動きと、実際のお金の動きとが直結しなくなったために起こることである。
この話でも解るようにどのような利益が数字の上で出ても、結局安心して使えるのは手元にある自分のお金しかないのである。
そこで稲盛氏は会計上の利益と手元のキャッシュとの間に介在するものをできるだけ無くすることが重要だと述べ、会計上の利益から出発してキャッシュフローを考えるのではなくて、いかにして経営そのものを「キャッシュベース」にしていくのかということを、中心に置くことが大切であると述べられている。
もっと具体的に言うと貸借対照表の資産の部の現預金以外の勘定科目残高を限りなく「ゼロ」に近づけることだと思う。可能であれば売掛金も受取手形も当然在庫も出来るだけ無いほうがいいのである。不要なものを持たずによりシンプルな貸借対照表を目指す事が資金繰りを良くする究極の方法である。