ご存じのように10月よりインボイス制度が実施された。一番影響を受けているのが免税事業者である。制度導入により登録事業者を選択しこれを機会に法人成をする事業者、逆に廃業を選択する事業者、経過措置の期間、免税事業者に留まり様子を見る事業者等、対応は様々である。また、売手負担の振込手数料(売掛金入金の際に差し引かれる手数料)については対価の返還(売上返品値引き)として処理しなければ、支払先に当該金額のインボイス発行を依頼する必要がある。そこで、大手企業を中心に振込手数料を支払者負担にする依頼文書が届いている。これを機に振込手数料差し引き支払いの日本独特の商習慣も見直されるのではないかと思う。インボイス制度導入は以前から指摘をさせて頂いていたが、消費税の大改正である。ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イギリス等)にも免税点制度はあるが、登録事業者を選択しない事業者ほとんどが淘汰されているようである。日本でも今後さらに様々な変化が起こってくるだろう。

さて今の時期は各省庁から税制改正の要望が出てくる時期である。26日には岸田総理が政府与党政策懇談会で、1人当たり計4万円の所得税と住民税の定額減税を2024年6月に実施すると発表した。自民・公明両党の幹部に減税を含む家計支援の具体策を年末までに決定するように指示したとのこと。岸田総理は「デフレ脱却を確実にするため、賃上げが物価に追いつくまで政府として支える」と強調し、「過去2年間の所得税、住民税の増収分3.3兆円を納税者にわかりやすく税の形で直接還元する」と述べた。所得税を一人当たり3万円、住民税を1万円減らす方針とのこと。配偶者や扶養親族も減税対象となる。納税者が家族2人を養う3人世帯の場合は計12万円分の減税になる。減税対象にならない住民税非課税世帯には1世帯当たり7万円を給付する。所得税が非課税の子育て世帯には追加の支援をする方向のようだ。高所得層への所得制限も検討する、という案である。

岸田総理としては「思い切った減税案を打ち出した」との思いだろうが、これがすこぶる評判が悪い。自民党からも「こんなものは経済対策ではない」と突き放した言い方をする議員もいる。経済対策という視点からみるとこの減税案では実施できるのはサラリーマンでは早くても来年の夏、自営業者は再来年の確定申告の後になってしまう。さらに6月からの減税にすると一回で税額控除できるサラリーマンは少ないと思う。4万円の金額を何回にも分けて減税されたのでは経済効果はほとんどないだろう。減税案発表直後の日経新聞の世論調査では内閣支持率が33%と政権発足後最低となった。首相が発表した物価対策として減税案を「適切とは思わない」は65%にも及んでいる。減税案は岸田総理の人気取り政策であることを国民が見抜いているのだと思う。国民にあまねく影響する税を政治的な思惑で使うのは厳に慎むべき行為であり、もっと真摯に日本の将来を考えるべきである。