7月29日、コロナウイルスの感染者数が初めて一万人を超え、日本中に急速に広がっている。そんな状況ではあるが、日本はオリンピックの真っ最中である。日本は連日金メダルを獲得、まさにメダルラッシュの活躍である。多くのメダリストたちはインタビューで、今日に向けて誰にも負けない努力を重ねてきたのが報われた、というコメントをしている。一方、本命視されていた多くのアスリートたちがまさかの敗北を喫している。彼らも努力を重ねてきたのは間違いない。勝負の世界は本当に厳しく、非情である。

何かを成し遂げようとすれば、努力をしなければならないのは当然であるが、やはり生半可な努力では成し遂げられない。会社経営でも同じことである。少し前に致知という雑誌で稲盛和夫氏の特集がされた。そこに盛和塾生のS氏の記事が載っていた。S氏は元々はやんちゃな人だったが、稲盛氏の講和テープを聞き衝撃を受け、盛和塾に入塾した。初めての塾長例会で決算書を見せると、「食べたり呑んだりする交際費はお前のものじゃないんだぞ。経営がわかっているのか!」と一喝された。そのころのS氏は仕事が終わると毎晩のように呑みに行っていた。その後も例会の都度「まだ改善されていないじゃないか。今から会社に戻って現場に入れ!」と叱責された。その過程で6S運動の率先垂範、「フィロソフィ」の導入、「誰にも負けない努力」の実行計画など指導をしてもらって、3年ほど経つと、会社全体がみるみる変わり、入塾前はほとんど利益が出なかったのが、5%、10%、15%、調子のよい時は20%もの税前利益を出せるようになった。自分自身も毎晩呑み歩いていたのが、毎朝5時に起きて社内の清掃をするようになった。まさに人生が180度変わったということである。

さらに、入塾から5年ほど経った頃、稲盛氏から「何を目標に経営をやっているんだ?」と聞かれ、「目標は特にありません。毎月利益が出ればいいんじゃないですか」と答えると「京セラは京都中京区で一番、次は京都、関西、日本で一番と高い目標を掲げて経営をやってきた。事業で儲けたお金で社長が家を買う、車を買う、贅沢するだけなら普通の中小企業のおやじだぞ」「経営というのは、定年を迎えた時に、この会社で働いて幸せだったと言ってくれる社員をどれだけつくれるかだ」とまた叱られた。また、「夜は何時間睡眠をとっているのか?」と聞かれ、「7時間」と答えたところ「それでは日本一にはなれない。俺は、2時間睡眠でこれまでやってきた」と、その言葉で再び心にスイッチが入り、睡眠時間を4時間に削って「業界日本一を目指そう」と目標を掲げ、今では売上68億従業員270名の会社に成長されている。S氏の経営者としての成長ぶりが手に取るようにわかる話である。アスリートも経営者も結果を出すには、「原理原則は同じ」である。