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トピック

贈与と名義預金

令和5年12月28日

今年も慌ただしく年末を迎えていますが、皆様にとって今年はどのような年だったでしょうか?12月12日に毎年恒例の今年の世相を表す漢字として「税」が選ばれた。消費税率が引き上げられた2014年以来、2回目であるとのこと・1年を通して防衛力強化や、子育て支援のための増税の議論が行われた・所得税等の4万円の定額減税が話題になった・インボイス制度やふるさと納税など、多岐にわたる税にまつわる話題が取りざたされたことなどが理由のようである。

今年の話題にはなっていないが、相続税、贈与税に深くかかわる「贈与と名義預金」についてふれてみます。先日令和3年に申告した相続税の税務調査がやっと決着した。かなり長引いたのだが、理由は家族名義の預金の扱いである。相続税の税務調査では家族名義預金のチェックは必ず行われる。一生に一度しか発生せず、金額も大きくなる相続による財産移転については、税務署は過去にさかのぼって非常に細かく入念に調べる。過去の贈与についても必ずチェックされる。名義預金とは一言でいえば、原資が預金名義者以外(被相続人等)である預金のことである。そういう預金があると預金の名義が家族であっても、実質的には被相続人の財産だとして、相続税の課税対象になると税務署は指摘する。家族が贈与財産として贈与税の申告納税していれば税務署がそれを名義預金として相続税として課税するのは困難であるが、「贈与として申告納付していない以上は、これは贈与ではなく、名義預金です」と言って贈与の成立を認めようとしない。税金にはその間に権利を行使しなければ、その権利が除外されるという除斥期間がある。通常は法定申告期限から5年とされているが、贈与税だけは例外で6年とされている。本当に贈与が成立していれば6年以上前の贈与を贈与税として課税することはできない。そこで名義預金として相続税を課税しようとするのである。

民法549条で「贈与とは当事者の一方が財産を無償で相手方に与える意思を表明し、相手方が受託をすることによってその効力を生じさせる」と規定されている。親が子供名義で預金し親が管理している場合がある。これでは贈与は成立しない。つまり典型的な名義預金となる。相続税対策として何年間にもわたり贈与を繰り返して行うことは有効な手段である。有効に贈与を成立させるには@贈与契約書は贈与の都度必ず作成するA金銭を贈与する場合には、受贈者の使っている口座へ振り込みで行い、贈与の履歴がわかるようにしておくB贈与された金銭は少しでも良いので受贈者本人のために使用するC年間110万円を超える贈与を受けた場合は必ず贈与税の申告をする等々注意点が多々ある。細心の注意が必要である。詳しくは当事務所にお尋ねください。

今年も皆様には大変お世話になりました。どうぞ良いお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願いいたします。


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心を高める経営を伸ばす世界大会

令和5年11月30日

イスラエルとハマスの戦闘が連日報道されていたが、戦闘休止が実現し一部人質の解放も実行された。家族と喜び合う映像が流れ少し安堵できるが、喜び合っているその人間同士が憎み合う姿を目にすると暗澹たる気持ちになってしまう。一日も早い停戦を願うばかりである。

先日「心を高める経営を伸ばす世界大会」が開催され、愛媛の仲間とともに参加してきた。この会は盛和塾の流れを引き継いだ世界中の経営者が集い、その経営体験を発表する大会である。中国から一人、ハワイ在住の日系人一人、日本の経営者5人の合計7人が発表された。皆さん稲盛経営哲学を指針にして、試練を乗り越え、全従業員の物心両面の幸福の追求を成し遂げるために、実践行動し結果を出してこられている。素晴らしい発表であった。 盛和塾時代の世界大会にも匹敵するパワフルな大会だった。

そんな経営者にまじって、愛媛からは弊所のお客様でもあるABC開発鰍フ西口泰宏氏(45歳)が中四国代表者として発表された。他の皆様にも勝るとも劣らぬ素晴らしい発表であり、参加された千名を超える参加者に大きな感銘を与えたのは間違いない。西口氏は事実上倒産状態にあった18億もの債務を背負った会社を引き継ぐところから経営者人生を始められた。お金もない、信用もない状態から、自分のできることと言えば一生懸命働くことのみ、「誰にも負けない努力」をしようと、日々懸命に働き続けられた。厳しい現実につい負けそうになる自分を、「燃える闘魂」で励まし続け何とか債務の返済をされた。その過程で、事業の多角化に取り組まれ、運送業、舗装業、不動産業、環境事業、保育事業を次々に手掛けられた。部門別採算を徹底され、それぞれの部門が相乗効果を生み出すようになっており、今では各部門が立派な一つの会社として成り立つような企業に成長されている。そして、売上16億円、税引き前利益率17%という驚異的な高収益企業を築き上げられた。その成長の原点は何かというと、西口氏の経営者能力もさることながら、「従業員を思う気持ち」に尽きる。従業員のために少しでも良い会社にしようと、小さなことから一歩ずつ毎日コツコツと努力を重ねられた結果である。まさに稲盛経営哲学の実践である。同じ愛媛にも、逆境からこのような会社を生み出すことができる経営者がいる、ということは皆様の大きな励みになられることと思い、今回書かせていただいた。しかし当然課題もある。急成長してきた会社なので人材育成としっかりとした組織作りが急務だと思うが、今後も稲盛経営哲学を学び続けられ、謙虚にさらに努力を続けていかれればますます成長発展されることは間違いない。愛媛のためにも頑張っていただきたいし、弊所としても成長発展の一助になれるよう努力しなければならない。


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定額減税案

令和5年10月31日

ご存じのように10月よりインボイス制度が実施された。一番影響を受けているのが免税事業者である。制度導入により登録事業者を選択しこれを機会に法人成をする事業者、逆に廃業を選択する事業者、経過措置の期間、免税事業者に留まり様子を見る事業者等、対応は様々である。また、売手負担の振込手数料(売掛金入金の際に差し引かれる手数料)については対価の返還(売上返品値引き)として処理しなければ、支払先に当該金額のインボイス発行を依頼する必要がある。そこで、大手企業を中心に振込手数料を支払者負担にする依頼文書が届いている。これを機に振込手数料差し引き支払いの日本独特の商習慣も見直されるのではないかと思う。インボイス制度導入は以前から指摘をさせて頂いていたが、消費税の大改正である。ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イギリス等)にも免税点制度はあるが、登録事業者を選択しない事業者ほとんどが淘汰されているようである。日本でも今後さらに様々な変化が起こってくるだろう。

さて今の時期は各省庁から税制改正の要望が出てくる時期である。26日には岸田総理が政府与党政策懇談会で、1人当たり計4万円の所得税と住民税の定額減税を2024年6月に実施すると発表した。自民・公明両党の幹部に減税を含む家計支援の具体策を年末までに決定するように指示したとのこと。岸田総理は「デフレ脱却を確実にするため、賃上げが物価に追いつくまで政府として支える」と強調し、「過去2年間の所得税、住民税の増収分3.3兆円を納税者にわかりやすく税の形で直接還元する」と述べた。所得税を一人当たり3万円、住民税を1万円減らす方針とのこと。配偶者や扶養親族も減税対象となる。納税者が家族2人を養う3人世帯の場合は計12万円分の減税になる。減税対象にならない住民税非課税世帯には1世帯当たり7万円を給付する。所得税が非課税の子育て世帯には追加の支援をする方向のようだ。高所得層への所得制限も検討する、という案である。

岸田総理としては「思い切った減税案を打ち出した」との思いだろうが、これがすこぶる評判が悪い。自民党からも「こんなものは経済対策ではない」と突き放した言い方をする議員もいる。経済対策という視点からみるとこの減税案では実施できるのはサラリーマンでは早くても来年の夏、自営業者は再来年の確定申告の後になってしまう。さらに6月からの減税にすると一回で税額控除できるサラリーマンは少ないと思う。4万円の金額を何回にも分けて減税されたのでは経済効果はほとんどないだろう。減税案発表直後の日経新聞の世論調査では内閣支持率が33%と政権発足後最低となった。首相が発表した物価対策として減税案を「適切とは思わない」は65%にも及んでいる。減税案は岸田総理の人気取り政策であることを国民が見抜いているのだと思う。国民にあまねく影響する税を政治的な思惑で使うのは厳に慎むべき行為であり、もっと真摯に日本の将来を考えるべきである。


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天空の隠れ里・樫谷棚田

令和5年9月30日

9月も終わろうとしているのに、毎日うんざりするような暑い日が続いている。今年は世界中が高温に見舞われているようである。地球の温暖化は確実に進行している。以前にも述べさせていただいたが、1人ひとりが地球環境を守る意識を持ち、ライフスタイルも変えていかなければならないと思う。

先日、日経新聞の地方版の記事が目に留まった。農業資材の販売会社がドローンを使い、「天空の隠れ里」と呼ばれる大洲市の樫谷棚田で農薬散布する実証を実施。同地域では水稲農家の高齢化が深刻で、作業負担を減らして棚田の維持がしやすい仕組みづくりを目指す。というものであった。故郷である大洲市にそんな棚田が残っているのかと気になり、調べてみたら、樫谷棚田は大洲市戒川という集落にあり、何と私の実家から峠を越えた反対側、壺神山の西側斜面標高500メートル付近に位置していた。

今時、手間のかかる棚田が何故残っているのだろうと疑問に思いさらに調べてみると、樫谷棚田も10数戸の耕作者により辛うじて維持されており、他の地域同様高齢化と後継者難の中で存続の危機に直面していたとのことである。そこで耕作者と域外の有志が「樫谷棚田保存会」を立ち上げ、棚田を守るため棚田オーナー制度を採用した。年会費3万円で100uのオーナーになり、田植え、稲刈りに参加すれば、玄米25kgと大洲産の新鮮な野菜、果物の贈呈を受けるという内容である。今では40人ほどのオーナーがおられ、棚田の保全に協力していただいているとのこと。

お彼岸に実家の墓参りに帰った折、樫谷棚田に立ち寄ってみた。御多分に漏れず細くて暗いつづら折りの山道を登っていくと、突然視界が開け、約200枚の棚田(3ha)が美しい曲線美を見せて、すり鉢状の奥行ある景観を作り出しており、まるで隠れ里のような空間が広がっていた。棚田は5、6枚を残し稲刈りが済んでいた。稲刈りがされていない棚田はオーナーの田で1週間後に稲刈り予定とのことであった。当日は谷から爽やかな秋風が吹いており、清涼感に包まれ憩いのひと時を過ごすことができた。

棚田は先人の知恵と工夫で築き上げられた産業遺産であり、農村の原風景である。その景観美は人の心を和ませてくれると同時に、洪水調整や生物の多様性を保持する機能を持っている。地球の温暖化対策の一助にもなっている。耕作者の方は「いつまでできるかわからないが頑張って保存していきたい」と言われていた。私も何らかの形で保存に協力したいと思う。なお、ドローンによる棚田の農薬散布は自動では難しく、うまくいかなかったようである。


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電子帳簿保存法と税務調査

令和5年8月31日

8月も終わろうとしているのに、毎日猛暑が続いている。そんな猛暑の中8月24日に福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まった。中国は日本からの水産物の輸入を全面的に禁止し、現地では日本の化粧品の不買運動や、日本人学校への投石など、再び反日感情が高まっている。憂慮すべき事態であるが、解決には時間がかかるだろう。

さて、日本ではいよいよインボイス制度が10月1日から始まる。ほとんどのお客様は対応済みであるが、事業者間取引の消費税の転嫁等は実際に始まってどうなるかである。まだ不透明な部分は残っている。

インボイス制度の導入と、もう一つの大きな改正である電子帳簿保存法の実施も令和6年1月1日から実施される。電帳法の悩ましい点は検索要件であるが、令和5年度改正で電子取引については、検索要件等の保存要件を満たすことができなかった時の猶予措置が設けられている。それにはまず保存要件を満たすことができなかったことについて税務署長が「相当の理由」があると認め、かつ税務調査の際に電子データのダウンロードの求め及び出力書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしていなければならない。「相当の理由」もシステム等の整備が間に合わないとか、資金繰りや人手不足等も理由に当たるが、何らかの理由がない場合は認められないとしている。決してフリーパスではないということである。

そして電子取引の猶予措置の適用がある場合でも、出力書面のみの保存は認められない。令和5年12月31日をもって廃止される“宥恕”措置では、出力書面の保存をもって事実上電子データの保存をしているものと扱われるが、令和6年1月1日からの新たな“猶予”措置では、出力書面の提示等に加えて、電子データそのものについても保存し、提示等できるようにしておくことが要件となっている。また、猶予措置を適用する場合は税務職員の提示等の求めに対して、一部でも応じなければ猶予措置の適用は受けることができなくなり、保存要件は満たしていないことになる。

多くの事業者においてはメール等での取引のやり取りが日常化している。それが電帳法における電子取引になるので、基本的には全ての電子取引の保存が必要になる。税務調査時には、当該取引履歴は調査官に求められた項目はすべて提示しなければならない。当然PCはすべて閲覧される。令和5年度改正の猶予措置で、電帳法は納税者の利便性の向上ではなく、課税庁の調査対応のために設けられた制度であることがはっきりしたと言える。


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格差

令和5年7月31日

毎日、世界中で猛暑が続いている。地球は確実に温暖化が進んでいる。政府や企業、一人一人が積極的に行動し企業活動や生活習慣を見直して、この奇跡の青い星地球を守らなければならない。残された時間は少ないと思う。

さて今月3日に国税庁が、全国の路線価を発表した。路線価は主要道路に面する土地の1u当たりの価格で、国土交通省が発表する公示価格の8割を目安に設定され、贈与税や相続税などの算定に使われる。今年は新型コロナウィルス禍からの経済再開で地価回復の勢いが強まっており、25都道府県で前年より平均値が上昇し、全国平均でも1.5%上昇している。ところが、四国全体の標準宅地の平均変動率は前年比0.7%の下落となっている。四国全体では31年連続の下落である。松山市と高松市は最高路線価が上昇に転じていて下落幅は2年連続で縮小したが、変動率は全国平均を大きく下回り、他の地域との格差が広がっている。全国12地域に分けられている国税局の中で、今年の標準宅地の変動率が下落したのは高松国税局だけである。前年0.3%の下落だった金沢国税局は0.1%の上昇、0.2%の下落だった大阪国税局は0.7%の上昇に転じている。残念ながら四国は他地域より後れを取っており、取り残された地域となってしまった。

26日には総務省が人口動態調査を発表した。日本人は1億2242万3038人で前年から80万523人減った。減少幅は0.65%で1968年の調査開始以来最大になったとのことである。四国においてはもっとひどく、四国4県の人口は合計368万7815人で前年比1.04%もの減少である。愛媛県132万7185人、香川県95万6787人、徳島県71万8879人、高知県68万4964人となっている。1%以上の人口減少率は全国でも数えるほどである。

上記の数値を見ても、このままでは四国は取り残された地域となり、地域間格差が拡大し、衰退の一途をたどるのは明白である。地球環境保護も喫緊の課題であるが、地域の衰退を防ぎ、地域経済を発展させることも差し迫った問題である。東京一極集中では、日本の多様性は失われてしまい、今以上に国力の低下を招いてしまう。田舎は田舎なりに都会とは違う活性化の方法があるはずである。当然生産人口が少ないのであるから、シルバー人材や、女性を積極的に登用し、皆が一丸となって豊かな地域社会になるべく取り組まなければならない。そのためには行政はもちろんのこと、企業の役割も重要である。今こそ経営者は知恵を絞り、努力を重ね、利益を確保し、雇用を促進し、納税をしなければならない。それは大きな社会貢献である。格差などものともせず、物心両面において豊かな地域社会にしたいものである。


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進まぬインボイス登録

令和5年6月30日

梅雨に入り毎日蒸し暑い日が続いています。また今年は4年ぶりにエルニーニョ現象が発生し、今後の天候が懸念されます。大雨災害が起こらないように願っています。

さて周知のように、インボイス制度が10月から開始される予定です。ところが、500万ほどの免税事業者のインボイス登録が23年5月時点で66万しかされてないということである。御存じのように、消費税の納税義務者が、インボイス発行事業者以外に消費税を支払ったとしても、仕入れ税額控除の対象外となり、税務署に納める消費税が増加することになる。政府はインボイス制度導入により、免税事業者が取引から排除される懸念を受け、免税事業者がインボイスの登録をした場合は、3年間は売上時に受けとった消費税のうち2割の納税で済む経過措置を設けた。それでも免税事業者の登録が進んでいないようである。日経新聞はその要因として次の5つを挙げていた。

  • 免税事業者の取引先の6割ほどが一般消費者ということである。そんなに多いのかと驚いたが、仕入税額控除が問題となるのはBtoB取引であるので、販売先が個人であればインボイスの発行は求められない。大きな要因と思われる。
  • 取引業者が売上5000万以下の簡易課税適用者である。私は要因としてはほとんど関係ないと思う。
  • 免税事業者との取引をした場合経過措置として3年間は仕入税額相当額の8割控除が可能とした。これは大きな要因となっていると思う。取引先が8割控除できるのだからすぐにはインボイスを求めていない。しばらく様子を見ようということは十分考えられる。
  • 農協等の組合員が、農協等に対して無条件委託方式かつ共同計算方式により販売を委託した農林水産物の販売は、組合員等から購入者に対するインボイス交付が免除される特例制度の存在。免税事業者である農業者等が100万ほどに上るということなので、これも要因の一つである。
  • 登録事業者になると当然消費税の納税義務者になり、納税と事務作業の負担が生じる。これも大きな要因と思われる。

財務省はインボイス制度によって新たに160万の免税事業者が登録事業者になり、その消費税収入を年間2500億円程と見込んでいたので、大きな誤算と言えるだろう。ただお客様の現状は業界によって対応が分かれている。インボイス登録を求めるような業界、そうでない業界で対応はまちまちである。事務所としてもお客様にとってどうするのが良いのか、消費税の受け手側、支払い側、双方の立場から個々に細やかな対応が求められる。


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一泊100万円は安い?

令和5年5月31日

先日中学校の同窓会に参加してきた。地元の同級生が古希の祝いを兼ねて開催してくれた。還暦の時も同窓会を開催したのだが、つい最近のような気がし、まさに「光陰矢の如し」である。ただ同級生とも近況を語り合い楽しい時間を過ごすことができ、開催してくれた地元の同級生たちに感謝である。

故郷の祝い事には地元の藤縄神楽(愛媛県無形文化財)の奉納が慣習化されており、今回も奉納された。藤縄神楽は大洲市の神社等を中心に30カ所以上で奉納されている。久しぶりなので神楽のメンバーに近況を尋ねたところ、コロナで奉納回数が減っていたのだが、ここのところ忙しいとのことなので、理由を尋ねると、大洲城の宿泊客の前で上演しているとのこと。回数が一年半で20回ほどになっているらしい。大洲市には他にも同じく県の無形文化財に指定されている山鳥坂鎮縄(しめ)神楽という神楽もあり、交互に宿泊客の前で上演していることなので、大洲城の宿泊数は40回以上にのぼる勘定になる。大洲城での宿泊は、基本料金が一泊一人55万円、利用は2人以上からなので、最低でも110万円からの宿泊となる。価格だけを見るとそんなに宿泊客がいるのかと驚きである。

宿泊の内容はまず、松山空港までスタッフが送迎に向かい、大洲到着後に男性なら“殿”として甲冑を、女性なら“姫”として着物を身に着け、城への入場セレモニーを行う。大洲藩初代藩主の加藤貞泰が、米子藩から大洲藩に移った際の史実をもとにして、移動のための馬や鉄砲隊の祝砲や法螺貝の合図、10人〜20人にもなる家臣の出迎えなどを演出する。家臣による城内案内の後、隣接している重要文化財である高欄櫓で、神楽鑑賞、地域の最高食材を用い、お殿様が召し上がったであろう色とりどりの料理を再現した夕食「お殿様御膳」を地酒とともに提供する。ライトアップしたお城を眺めながら入浴し、ラウンジでお酒を提供、その後、天守にて就寝する。翌朝はこれも重要文化財である臥龍山荘にて食事、御呈茶を提供。街歩きや街での体験を楽しんだ後、松山空港まで送り届ける。これらを基本体験として、オプションも含めてオーダーメイドで旅程を組み立てる内容である。総じて満足度は高く、宿泊者の方は、口をそろえて「100万は安い」と言われるそうである。

「経営の神様」と称される稲盛和夫氏が、中国出張の際に露店で売られている一袋20円の焼き栗を「もっと安くならないか」とさんざん値切り倒し、結局は買わなかったという有名なエピソードがある。稲盛氏はケチで買わなかったのではなく、内容が20円にも至ってないので買わなかったのである。100万円でも安い、20円でも高い、物の値段は金額の多寡ではなく、その内容にリーズナブル感があるか否かで決まるのである。


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設備投資と借入金のバランス

令和5年4月30日

少子高齢化社会の到来が言われて久しいけれど、先日、国立社会保障・人口問題研究所が日本の人口予測を公表した。出生数は2059年には50万人割れ、2070年には人口が3割減の8700万人になるという衝撃的な内容だった。このままでは国力が縮んでしまう。日本が2030年に現在の成長率を確保するには、労働生産性を2.5倍にする必要があるとのことである。とても実現できそうもない数字である。やはり少子化対策は喫緊の課題である。

企業が生産性を高めることが今後より重要になり、日本全体の課題である。そのためには色々な取り組みが必要であるが、設備投資も当然必要となる。設備投資には一時的に多額の資金が必要になる。自己資金で賄うことができれば問題はないのだが、普通の企業は借入金に頼らざるを得ないのが現状である。そこでお客様からいくらまでなら借入金をしてよいかよく質問されるため、いくつかのメルクマールになるものを取り上げてみた。

・税引き後利益+減価償却費
借入金の返済原資は税引き後利益+減価償却費である。借入金(既存借り入れも含む)を金融機関への返済期間で除し一年間の返済額を算出して税引き後利益+減価償却費を限度に新規借入金を算定する。広く知られている方法である。この際、新規設備投資による予想利益も上乗せするのであるが、あくまで予想なので注意が必要である。好調な受注状況の時に設備投資を考えるので、甘い予測になりがちである。それを前提に借入をし設備投資をしたが、受注が減少し借入金の返済に苦労するというのは珍しいことではない。

・減価償却費と売上の伸長率
減価償却費と売上の伸長率の比較をすれば過大設備投資かどうかの判断指標になる。設備投資をした部門の減価償却費の伸長率がその部門の売上の伸長率を上回ってしまうようであれば設備投資が行き過ぎであるといえる。設備更新は得てして同時期に到来するので当該指標も参考に慎重に判断する必要がある。

・支払利息と売上の伸長率
金利負担額も判断の指標になる。金利についても部門別に集計してその部門の売上の伸長率と支払利息の伸長率を比較して、支払利息の伸長率の方が大きければ借りすぎということになる。償却資産のみならず土地などの非償却資産の取得の場合の指標になる。
借入返済が増えてもキャッシュフローが回ればよいのであるが、借入返済は長期に渡るので、やはり余裕を持った返済計画にしなければならない。そのためにも利益率10%以上の高収益企業が目標になる。また間違わない判断をするためには、損益計算書の分析能力が必要である。少なくとも部門別会計は必須である。また、税制も設備投資をする会社を後押ししている。設備投資減税として即時償却や税額控除制度があります。できれば設備投資前に当事務所にご相談いただければと思います。


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伸びる選手と伸びない選手

令和5年3月31日

2017年以来6年ぶりの開催となった野球世界一を決める第5回WBCが3月8日〜22日にかけて行われ、日本代表・侍ジャパンは決勝で米大リーグのスター選手がそろう米国に競り勝ち、3大会ぶり3度目の優勝を果たした。大会期間中は、野球ファンを連日楽しませてくれた。特に優勝を決める最後の打者に大谷の同僚トラウト選手を迎えたシーンは、大リーグでMVP経験のある日米のスターの直接対決で運命めいていて、漫画のような世界だった。一球、一球かたずをのむ中、100マイルを超える速球で追い込み、フルカウントから外角へのスライダーで空振り三振を奪ったシーンは、久しぶりに野球の醍醐味を味わわせてもらった。投打の二刀流で活躍し大会MVPに輝いた大谷は、その瞬間を「間違いなく今までのベストの瞬間」と表現した。

その大谷の二刀流を育てたのは栗山監督であるが、今回の采配ぶりも称賛されている。選手を信じ切り、選手の能力を最大限に引き出そうとするその姿勢には、ゆるぎない指導哲学を感じさせられた。栗山監督は勉強家で以前から、森信三氏、安岡正篤氏、渋沢栄一氏、そして稲盛和夫氏等の書籍を愛読し、その指導哲学を確立されたようである。

ある雑誌の記事が目に留まった。栗山監督に「これまでたくさんの選手を育ててこられた中で、伸びる選手と伸びない選手の違いはどこにあると思われますか」という問いかけに答えたものである。

・まずは野球を好きかどうかということです。
本当に野球が好きであれば、誰よりも野球がうまくなりたいと思うわけで、好きなもののためだったら、誰よりも努力できると思うんです。ところが、この世界は自分の好きなことを仕事としてやれる数少ないものの一つなのに、本当に野球が好きなんだろうかと思うような選手もいるんです。それほど好きでなくても才能溢れるゆえに活躍できる選手もいるけど、最後はやっぱり野球を好きという思いが、その選手を大きく押し上げる力になると思います。あの稲盛氏も「仕事を好きになりなさい、好きになる努力をしなさい」とよく言われていた。

・野球に対する純粋な思いが大切である。
あとは素直さです。人間というものは、少し結果が出てくると、自分のやっていることを正しいと思うようになります。でも本当に正しいかどうかなんてわかりませんよね。だから、自分がやっていることは正しいと凝り固まってしまうのではなく、自分にとって耳の痛いことも素直に受け入れ、スポンジのような吸収力や適応力と言ったものを持っている選手が、やっぱり一気に伸びていきます。

野球でも最後は思いや人間性が問われるのである。どの世界でも原理原則は同じである。


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暦年贈与と相続時精算課税

令和5年2月28日

昨年の2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻が一年を過ぎても続いている。昨年は「ロシアの暴挙」として書かせていただいたが、今は「ロシアの誤算」と言っていいだろう。しかし、毎日多くの人が戦争で亡くなり、ウクライナの多くの人々が命の危険にさらされているのは昨年と何ら変わっていない。一刻も早く安全な日々が戻ることを祈るしかない。

昨年12月に令和5年度税制改正の中で、相続税・贈与税の改正について述べさせていただいた。暦年課税では生前贈与を相続税の対象財産に加算する期間を3年から7年に延長する一方、相続時精算課税に新たに非課税枠(110万)を設けて使い勝手が改善された。それも非課税枠の贈与財産は相続時に相続財産に加算しないとのこと。驚きの改正である。新たな相続税対策が可能となり、生前贈与の再検討が必要となった。

相続税は相続人が被相続人から受け継いだ財産に課税され、取得財産に応じて税率が上がるいわゆる超過累進税率になっている。そこで、生前に財産を相続人に贈与し相続財産を減らせば相続税を節税できる。受贈者には贈与税が発生するが、一人につき年110万(基礎控除)までなら非課税である。これが暦年贈与である。

それに対して相続時精算課税とは、贈与時には2500万円(特別控除)までは課税されず、累計で2500万円超になれば一律20%の贈与税が課税される。ただ、贈与財産は被相続人死亡時にはすべて相続財産に加算され精算がされる。つまり相続税の節税効果は基本的にはないとされ、暦年贈与に比べて利用者は少なかった。

ところが今回の改正で前述したように相続時精算課税に年110万の非課税枠が創設され、年110万円までの贈与なら加算不要となった。それに対して暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与財産の加算期間を7年に延長された。当然110万以内の贈与財産もすべて加算対象になる。被相続人になる方がかなりのご高齢で相続発生まで時間がなさそうな方が相続財産を少しでも減少させたいなら、暦年贈与より相続税精算課税の利用が有効になる。さらに、例えば父親からの贈与は相続時精算課税、母親からの贈与は暦年課税を選択すれば、相続時精算課税の非課税枠110万円、暦年課税の非課税枠110万円、合計220万円が贈与税の非課税となるようである。ただ、相続時精算課税は一度選択したら暦年課税には戻れない、さらに贈与時の価額が固定されるので、その効果とリスクを慎重に検討しなければならない。当事務所も積極的にご提案等していきますのでご遠慮なく御相談ください。


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飯田 亮

令和5年1月31日

政府は新型コロナウィルスの感染症法上の分類を5月8日に「5類」に引き下げると決定した。季節性インフルエンザと同じ分類にし、平時の社会経済活動に戻れるような大幅な対策緩和に踏み切るとのことである。感染者の待期期間もなしとし、マスク着用も個人判断になる。様々な検討の結果だと思うが、本当に季節性インフルエンザと同等にして良いのか?一抹の不安はぬぐえない。国会等でしっかりと議論していただきたい。

1月7日にセコムの創業者飯田亮氏が89歳で亡くなった。飯田氏は1962年に日本初の警備保障会社(現セコム)を設立、1964年の東京オリンピックの警備を任され、テレビドラマ『ザ・ガードマン』のモデルにもなり、「ガードマン」という言葉を定着させた。これで急成長のきっかけをつかみ、日本になかった警備産業を開拓し、一代で業界ダントツ1位の1兆円企業に成長させた。第二電電の設立時には多額の出資をし稲盛氏を手助けした。稲盛氏とは盟友関係であった。飯田氏と稲盛氏は、本田宗一郎氏(ホンダ創業者)や井深大氏と盛田昭夫氏(ソニー創業者)立石一真氏(オムロン創業者)などに続く、「戦後ベンチャー第2世代」の雄として日本の経済界で大きな存在感を示したが、稲盛氏の後を追うかのように亡くなってしまった。

飯田氏も多くの名言を残されているが、その中に「エネルギーを出し切れ」というのがある。「人間的エネルギーというものは使えば使うほど増殖されるものである。人間的エネルギーは使えば減るし、減った分を補充するには、それなりの時間がかかると思っていた時期もあったが、そうではない。充電するには時間などかからないし、使えば使うほど充電されるものである。創業時にはまだ会社も小さく、いい人材が集まらなかった。優秀な人間を集めて、いい企業体をつくるのはわけのない話だけど、自分をはじめとする半人前の人間が集まって企業を成長させていくには、人一倍のエネルギーを出していかなければならないからそういうことを言い続けた」と話されていた。

また「狂であれ」とも、「事業は継続していかなければならない。それには勝ち続けなければならない。誰でも一度はまぐれで勝つことができる。だが、勝ち続けるということは非常に難しいことである。勝つというのは、相手より優れているということであり、凡でなく非凡であるからこそ勝てるのである。非凡は、いわゆる常識の枠内からは決して生まれない。はっきり言えば、勝ち続けるには狂であることが必要なのである」とのこと、飯田氏らしい言葉である。表現の仕方は違えど稲盛氏の言葉に相通ずるものがある。ご冥福をお祈りします。


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